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子猫と写真と

  • Day:2012.07.24 07:39
子猫物語

猫のHに腕枕されているのは、子猫の時のもの。
これはほんの2年程前に、以前の家のお隣さんから頂いた。
小さい時のHの写真を持っていなかったから、
とびきりのプレゼントに声を上げて喜んだ。


Hは生後約二ヶ月で我が家にやってきた。
左足が悪くて、びっこをひきながら、勤め帰りのWの足に何度もじゃれつき、
声にならない声で鳴きながらついてくる。
どうしようもない気持ちになって、保護して家に連れ帰ったそうだ。

盛夏だったこともあり、日中誰もいない家の中に放置すると、子猫はダウンしてしまう。
そう考えて、Wはお隣りの中学生Jに預けて、世話を頼んだそうだ。
実は彼女も公園でウロウロしていたHを飼いたかったらしく、喜んで世話をしてくれた。
数日後「トイレのしつけもしておきました」と手渡された。
一人前の猫になって、Hは帰ってきた。

私はといえば、その頃海外に行っていて不在だった。
連絡はもらっていたけれど、見知らぬ猫がいる家に戻ってきた。
しかし当時近くのアトリエで仕事をしていた為、
日中、家にいないと飼えないと思い込んでいた私は、
近所の人や知り合いの獣医さんに頼んで飼い主を探してもらった。

貰い手がみつからないまま、3週間が過ぎた。
獣医さんが「猫はひとりでお留守番ができるから飼ってみたら」と。
手のひらに乗る大きさだったHはすんすんと大きくなっていて、
もう手放したくない存在になっていた。

可愛かった。けれども半年間ぐらい、
子猫の一番可愛い時期に写真を撮らなかった。
ぴょんぴょん動き回って撮りにくいというのもあったが、
何より、猫にべったりの自分という状態が写真として残るのが嫌で。
WとHの二人と一匹の家族という現実が、固定されるのを、
どこかで認めたくなかった。猫が子供代わりと言われるのも抵抗があった。
独身の友人も動物を飼い始めると、一人暮らし決定の静かな決意表明のようだったし。

今にして思うと愚かだった。その年齢の想いは否定しないけれど自意識過剰。
とにかく写真を撮らなかったことを残念に思っていた。

10年も経って、思いがけないところから、
届けられた過去のジグソーパズルの大切なピース。
預かっている間に撮っていてくれたのだ。
Jに感謝。


猫に限らず古い写真を見るようになったのも、つい最近の事。
旅行の写真はあっても、アルバムを広げて家族と語り合うことは、滅多になかった。
いつも目線が先に行っていて、過去の事は未熟で照れくさいものだったから。

数年、時に10年以上前の古い写真達をみつめて文章にしたことで、
自分の来た道をゆっくりと見直せた気がする。
写真がきっかけで思い出せたエピソードも沢山あった。

Hは13歳のおじいさんになった。やせ猫だけれど、まだまだ元気。
足も成長するにつれて治った。

猫も写真も向こうから呼ばれる時がある。
その時は特別なことじゃないと思っているけれど、時間が経ってみると、
ちゃんと自分の足跡だったり、マイルストーンになっている。

花影

  • Day:2012.07.20 07:32
花影

花とグラスが落とす光と影を見ている。
時計の針が少し傾くだけで、あっという間に形や色が変わっていく。

冬はふんわり優しい灰色、夏はシャープな墨色を置くように。
光の色は何色なんだろう。

おすまししたバラは体の力を抜いて、顔の向きだけ気にしてる。
花びらが少しぐらい傷ついていたって、いいじゃない。
(ゼンゼンミエナイ)

白い晒の布をさっと拡げて、
見えない、あわいをそうっと、うつし撮る。
(ミエタヨスコシ)

どんどん変わっていくあなたを、
見ていたくて。残したくて。

光のハンモック

  • Day:2012.06.28 07:41
光のハンモック

Tense+Relax
Emi Murakami
2001

Photo : Satoshi Asakawa


『ひかりの国のタッシンダ』という物語がある。
子供の頃に読んで、印象に残っていた。

タッシンダはよその国から大きな鳥に運ばれてきた女の子。
髪や目の色がみんなと違っていて、陰口を言う人もいたが、
織物の名手として、一目置かれていた。
そんな平和な国に、ある日怪物が攻め込んできた。
暗闇でしか生きられないモンスターを特別な網で
捕らえて朝の光でやっつけるという作戦。
王子様と協力して見事退治し、二人は結ばれる。

よくあるお姫様物語なのだが、挿絵や描写がきめ細やかで、
特にある部分が記憶に残っていた。

怪物を退治する為に、チムブリルという虫がはきだす細い糸で
網を作るというくだりだ。

「その糸は鋼鉄のロープよりつよく、
しかも、ほとんど目に見えないくらいほそいのです。
一万メートルの糸で、やっと紅茶茶碗一ぱいの量しかありません。」

細くてふわふわと木の葉や小枝にからみついた。
そんな糸を不眠不休でタッシンダが編む様子を、
手に汗をにぎって読んだ記憶がある。

透明な糸と思い込んでいたが、読み返してみると、そんなことは書かれていない。
暗闇の中で手探りで編む様子が透明だと思わせたのか。
ちょうどレース編みに興味を持った頃でもある。
レース糸でも大変なのに、そんな細い細い糸を編むなんて...

この時なのかもしれない。
扱いにくい素材を自由に繰れるようになりたいという感情が
芽生えたのは。正攻法のやり方じゃない方法を探る癖。

ガラスで柔らかい作品を作ってみたい。
試行錯誤して、ガラスを織物のように織った。

実をいうと、硬質な文章が子供の頃は余り気に入らなかったのだが、
そのイメージを長く心にとどめることができたのは、
透明感のある詳細な描写のおかげだろう。

作品のタイトル「Tense+Relax」は緊張とリラックスの意味。


『ひかりの国のタッシンダ』エリザベス=エンライト


Night & Day

  • Day:2012.06.22 07:39
night & day1


I know this is out of the basic composition.
why the center is empty?
maybe you have own answer.

構図の基本から外れているよね。
どうして、真ん中が空っぽなの?
あなたが答えを持っているかも。

こんな謎かけをしたのは、昔のこと。




simple answer, it lets us all know we have more room in the center,
the HEART to grow...without a doubt that is what it means to me..awesome shot…

簡単な答えさ。
それは、俺たちみんなに、真ん中にもっと満たすべきものが
あるってことを教えてくれているんだ。
「心」が育っていくんだ、そこに…
間違いなく、自分にとってそれが大事なこと。
いい写真だね。

曹長Nはそう答えた。




暗闇の心にその答えは響いてきた。
少しロマンチックすぎるけれど
素直な心がストレートに伝わってくるアンサー。

Night and day, you are the one
夜も昼も、あなたのことだけ。

彼の心の中にもこのフレーズが広がったのだろうか。
隣国の慣れない基地。寂しがり屋のサージェント。

早く本国に帰って家族に逢いたいと
ギターを弾きながら、呟いていた泣き虫さん。

あれから数えきれない夜と昼が過ぎた。
Nは国に無事帰れただろうか。



Ella Fitzgerald ”Night and Day” 


ボストンの魔法使い

  • Day:2012.06.13 07:33
ボストンの魔法使い2

日暮れ時の風景が似合う部屋。

散らかっているようで
窓、ガラス、ランプ、木枠が、ちゃんと自分の場所にいる。

部屋の持ち主はマンカおばさん。
ハンガリー系のアメリカ人で、
ご主人をなくしたのかもしれない、一人暮らしだった。
ボランティア活動をしながら下宿屋を営むことで、生活していた様子。

この不思議な家に一週間ぐらい滞在したことがある。



ボストンの魔法使い

大柄な彼女はどこか魔法使いのようだった。
不思議な帽子を沢山持っていたし、
空を飛べそうな箒も、ほら。

夕御飯を終えて散歩に誘われた。
この日は箒ではなく、歩くことにしたようだった。

ボストンのごく普通の住宅街。
カーテンから漏れるオレンジがかった暖かい光は、
そこが幸せに満ちた部屋ということを静かに語っていた。
少なくとも、そういう顔をしたがっていた。

それぞれが窓やカーテンに工夫をこらしていた。
窓辺に電気スタンドを飾る家も多かった。

「夜の灯りが漏れる家の風景が大好きなの。素敵だと思わない?」

ガラガラとした低い声の中の透明なものが、
夜のひんやりとした空気の中で伝わってきた。

"Beautiful"
"Look at that!"

きれいだね。
ねえ見て見て!

小声でなんども言い合いながら、
よそのお宅の窓を遠慮がちに指差して、家路についた。

マンカおばさんの魔法使いのような鉤鼻と横顔が
夜のほんのりとした光の中でちらつく。


遠い日の大切な思い出。